下町ロッカールーム | 第01話｜藤沢／グッドワイフ

大相撲が始まると、
おばちゃん村ができる。

下町のジムのロッカールームには、
ちょっと不思議な“季節の合図”がある。

たとえば——
大相撲が始まる時期。

普段はほとんど誰も座らない
リクライニングチェアの休憩スペースが、
夕方5時を過ぎると、
ゆっくりと、おばちゃんたちで埋まっていく。

誰も「集まろう」なんて言ってないのに、
まるでそこが“巡礼の時間”みたいになって、
一人、また一人と吸い寄せられていく。

テレビの前で並んだ彼女たちは、
その日の取り組みに合わせて
ちょっとした声を漏らしたり、
首をかしげたり、
妙に詳しいコメントをしたりしている。

私はその前を通りすぎるだけなんだけど、
なんだか“村の入り口”を横切るような気分になる。

大相撲が始まると、
こうして小さなおばちゃん村ができて、
終わるとまた静かなロッカールームに戻っていく。

ただそれだけのことなんだけど、
毎年この光景を見るたびに、
なんとなく「ああ、またこの季節か」って思う。

……まあ、本当にそれだけなんだけどね。
でも、こういうのが、たまらなく好き。

 

藤沢🏷️