内田あおい
品格とエロス!極上美爆乳美女 SS
他人を見るということ
2026/10/05 (月) 00:46:33

【大宮研究所フィールドワーク報告】
――人間は、見たままではない――
昨日のフィールドワーク終了。
昨日の研究対象は四名。
なお、本報告書に学術的価値があるかどうかは知らない。
査読者もいない。
研究機関もない。
あるのは現場と、四人の男と、助手イーブイだけである。
十分であろう。
一人目。
久しぶりに会った。
珍しく、私はこの人を覚えていた。
「短い時間でごめんね」
「今は差し入れするお金もないんだ」
そんなことを言っていた。
別に謝る必要などない。
長い時間を取らなければならぬ義理もなければ、何かを持って来なければ人に会えぬ道理もない。
それでも人は、自分で勝手に義理を作り、その義理を果たせないことを気にする。
考えてみれば妙な話である。
しかし私は、そういう妙な律儀さを覚えていたらしい。
何を貰ったかではなく、
何を気にしていた人なのか。
人間の記憶とは、案外そういうところに引っ掛かる。
二人目。
名前は覚えている。
そして、相性がよかったことも覚えている。
以上である。
何を話したのか。
どんな人だったのか。
肝心なところが、どうにも思い出せない。
今日会ったばかりである。
甚だよろしくない。
研究者を名乗りながら、観察対象を一名紛失した。
しかし妙なのは、
人物の輪郭は消えているのに、
「相性がよかった」
という感触だけは残っていることである。
説明に必要な資料は失われ、結論だけが保存された。
どうやら人間は、理由があるから相性がよいとは限らないらしい。
むしろ先に、
「なんとなく合う」
という事実があって、あとから我々がもっともらしい理由を並べているだけなのかもしれない。
人間関係まで理屈どおりに出来ていると思うのは、理屈の側の思い上がりであろう。
というわけで二人目。
もしこれを読んでいたら、もう一度姿を現していただきたい。
このまま、
「相性よし。詳細不明」
で研究を終了するわけにはいかない。
再検体を希望する。
三人目。
ラグビー観戦をする人。
風格があった。
風格というものは妙である。
声が大きいわけでもない。
偉そうなわけでもない。
自分を大きく見せようとしているわけでもない。
むしろ、大きく見せる必要がなさそうなのである。
人は自分について、よく説明する。
私はこういう人間です。
こんな仕事をしています。
こんな経験があります。
これを知っています。
あれも知っています。
だが時々、何も説明されないうちから伝わってくるものがある。
人間は言葉で自分を飾ることはできても、言葉だけで自分を作ることはできないらしい。
そしてラグビーの話になった。
話が盛り上がりすぎた。
途中から、こちらも仕事中であることを忘れかけた。
研究ではない。
危ないところであった。
四人目。
三回しか会っていないのに、すでに古参である。
大宮研究所の歴史は浅い。
いつもよく笑う人なのだが、今日はふと、自分の身の上を話してくれた。
それを聞きながら、少し考えた。
私はこれまでこの人を、
「よく笑う人」
として見ていた。
だが、よく笑うということと、何も抱えていないということは、もちろん同じではない。
むしろ何かを抱えているからこそ、よく笑う人もいるのではないか。
もっとも、これはまだ仮説である。
私は他人の心など読めない。
三回会った程度で、
「本当のあなたはこういう人ですね」
などと言い始めたら、それこそ研究所を閉鎖した方がよい。
人間は、他人について何か一つ分かると、全部分かったような気になる。
よく笑うから明るい。
無口だから暗い。
優しいから善人である。
冷たいから悪人である。
ずいぶん便利な分類表である。
便利すぎて、人間そのものを見る必要がなくなる。
人は、自分の内側をそのまま顔に貼り付けて歩いているわけではない。
笑っている人間が幸福とは限らない。
黙っている人間が不機嫌とも限らない。
よく喋る人間が心を開いているとも限らない。
そしておそらく本人でさえ、自分のことを全部知っているわけではない。
さて、昨日の四名を並べてみる。
久しぶりなのに覚えていた人。
今日会ったのに思い出せない人。
何も誇示しないのに風格だけが残った人。
よく笑う顔の向こうから、少しだけ別のものが見えた人。
こうしてみると、私が見ているのは、その人そのものではない。
その人から私のところまで届いた、ほんの僅かな断片にすぎない。
しかも、その断片のどれを拾い、どれを捨てるかを決めているのは、私自身である。
他人を観察しているつもりでいると、最後にはどうしても自分が出てくる。
誰を覚えていたか。
何を覚えていたか。
何を忘れたか。
何に引っ掛かったか。
観察とは、対象だけを明らかにするものではない。
観察している人間の癖まで、容赦なく明らかにする。
甚だ迷惑である。
他人を疑え。
自分も疑え。
そして、とりあえず培養せよ。
ただし顕微鏡を覗き込みすぎると、
いつの間にか自分がプレパラートに載っている。
なお昨日は、検体を一名紛失した。
研究費は無事確保された。
なお、研究対象が増えたため、
実質的には赤字である。
お店情報
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